黄玉の聖騎士〜プロローグ〜

 奇妙な夢を見た。〝あの戦い〟の記憶を呼び起こすかのように。

 周りには横たえた人々が夥(おびただ)しく散らばっていた。

 そうだ、一緒に戦っていた勇士たちと敵対していた勇士たちの殺し合いなんだな、と。

 親友は見栄張って俺の助言をはね退け、戦いへと赴く。しかし、多勢に無勢。戦況が覆ることはなく仲間の勇士は次々と斃(たお)れていく。

『……、後のことは頼んだぞ……!』

 後に彼は俺が死ぬ瞬間を見ていたというが……。真実は彼みぞ知ると。そうであったと言える。ちゃんとした物語はそのうち語ることにしよう。

◇ ◇ ◇

 俺はローランサン家の長男として生を受けた。

 ローランサン家は代々女性が家長を務めた。我が家は男性が多く占めるスヴェストル家、王家の血筋を受け継ぐヴァロワ家と並ぶ仏国の名門御三家だ。彼らと関われるというのは民間人にとって一つのステータスと言われる。当の俺たちはなんとも思っていないのだが。

 ローランサン家の長男、つまり次期家長候補として様々な教養を身につけさせられた。マナー講座、習い事、ダンスそして女性へのエスコート……数えるとキリがない。ローランサン家にとって男児が誕生したのはおよそ百五十年ぶりだというのだから驚きだ。

「男児であれば〝オリヴィエ〟と名付けるように」と母方の高祖父がこう言っていたことを思い出す。

〝オリヴィエ〟とは中世仏国の武勲詩における王の側近であり十二勇士(ドゥーズペール)、つまり〝聖騎士(パラディン)〟の一人で智将だったと伝えられている。

 先祖はずっとその思いを守り続けた。しかしながら産まれるのは女児ばかりだった。三十年前、待望の男児が産まれた。その男児がオリヴィエ、つまり俺だ。もっとも父は違う名前を付けたがっていたというが、その提案は却下されたそうな。

一方の母は祖母とともに高祖父の願いを今、叶えようと思ったのだった。その願いは凡そ百年越しに叶ったのだ。きっと彼は天国で喜んでいるに違いない。

 俺は幼い頃から期待というプレッシャーをかけられている。婚約者(フィアンセ)は母が直接令嬢がいる家へと赴き、話し合いのついでに決めてくるから困ったものだ。「好きな女性(ひと)くらい自分で見つけてくるのに……」と頭の中でそう思ってても母には逆らえない、それが常だった。カヴァリエーレになると決めた時、母は喜んでいたのを覚えている。表向きはそうであるが、真の目的は仏国軍人になることだった。

 十三歳の時、レッスンの息抜きとしてさ父方の祖父に連れられたパレードで街中を練り歩く軍人たちの勇姿を見ているうちに「かっこいい」と感じるようになり、そこから夢を追うために地道に努力を重ねた。

どうせならカヴァリエーレと軍人、両方ともなっちゃおうという実に単純な考えだった。

 この経緯は後程話すことにしよう。

◇ ◇ ◇

 カヴァリエーレとして十二年、総長(グランドマスター)になって三年が経った。

 俺は彼らをまとめるリーダーであり、上層部から言われた内容をカヴァリエーレたちに伝えるのが俺の役目だ。民衆からは「頼りになる騎士様」や「高名な騎士様」って言われているが、そんなに大それたことでもない。内容はウィンチェスターとほぼ変わらない。違うところをあげるとしたら、カヴァリエーレはグローリア教団直属の騎士でウィンチェスターは国家直属の騎士であることだ。

 カヴァリエーレが教団騎士だとすれば、ウィンチェスターは円卓騎士ということになる。

二つの騎士団は中世欧州時代から対立しては争いを続けていた。あまりにも目的が違いすぎて、事あることに問題を起こしていた。ある日には人が命を失い、またある日には人が行方を晦ましたりと……数えきれない程あった。

 何世紀か経ち、現代欧州の世。俺たちの時代が訪れた。代々グローリア教団騎士総長がなし得なかった〝奇蹟〟を齎(もたら)す時がやってきた。そのチャンスを逃すまいと俺はカヴァリエーレたちにウィンチェスターへの開戦宣言を計画した。

開戦宣言を実行した結果、教団内のボルテージは最高潮に達した。結束力が固くなったところで俺たちカヴァリエーレ幹部は静観することにした。

《これは一人の聖騎士が己の〝自由〟を語る話である》

April Neun

四つの物語、カヴァリエーレという創作をやっております。